オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



半導体版・全段差動プッシュプルの原理

概要

 全段差動PPを半導体で作るとしたら? というテーマをずっと考えていたのですが、MOS-FETのSRPPによって道が開けました。

www.audio-simulation.net

回路

 こんなのです。

回路
回路

 なんじゃこりゃと思った人もいるかもしれませんが、シンプルな回路です。初段はただの差動、二段目はMOS-FETのSRPPの差動です。

 この形式だと直流電位を安定させる工夫が要るので、中点電位をctrlとして出して初段負荷抵抗に直流帰還しています。うまいやり方は他にありますが、この方式が一番シンプルなのでとりあえずこうしています。下のごちゃごちゃは帰還回路と負荷です。

 素直にシングル2段差動を作ると、出力段を定電流負荷などにせざるを得ないので効率がA級シングルBTLと同等になり、さすがに現実的ではありません。コンプリを使って上下対称差動のDEPPも考えましたが、全体的にスマートさに欠けます。SRPPならシンプルな回路でA級SEPPのBTLと同等程度の効率にできます。

オープンゲイン
オープンゲイン

 足りないですね。初段gmを増やして負荷を定電流化すれば直流側は好きなだけ増やせます。

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 高周波側はそれでも不足するので、出力段にドライバを付けた上で(出力段ゲート容量が1st ポールを作るので)適宜位相補償すればいいでしょう。2段構成で十分実用的なゲインになると思います。

 とりあえずこの記事ではそこまでやらずに、せっかく低帰還なので裸に近い状態の歪みでも見てみます。

出力FFT
出力FFT

 都合により負荷電流で評価しています。例によって1kHz約1W出力です。なお、片側1.5A(両側3A)流れていることを言い添えておきます。

  • 1kHz:-9.6dB
  • 2kHz:-101dB
  • 3kHz:-107dB

 帰還量を考えるとシミュレーションとしてはこんなものでしょう。初段を定電流化してあれこれやれば帰還量は30dBくらい増やせるはずなので、いい線行くと思います。

まとめ

 やればできそうだし、けっこう面白いかもしれません。消費電力は大きいですが。