オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



ワイドラー型オペアンプのシミュレーション

はじめに

 いわゆるワイドラー型の平凡なオペアンプをシミュレーションしてみます。なお、ここでいうワイドラー型とは、

  • 初段:差動+カレントミラー負荷
  • 二段目:単段エミッタ(ソース)接地+定電流負荷
  • 終段:フォロア

 のような構成のアンプ回路のことです。 俗にこういう形式がワイドラーと呼ばれることが多いというだけで、正式な名称ではないと思います。

 とてもコンベンショナルな回路で、やれ〇〇式だ、新方式の○○回路だといった話題が日常的に飛び交う自作半導体アンプ界隈では逆に(?)省みられることの少ない回路ですが、これに勝る性能を出せている回路は実は少ないんじゃないかという気もします。
 (そのことを否定するつもりはありません。自作アンプの目的は単純な性能追求にあらず。そういう目的なら、オペアンプを使えば良いのです)

 ま、ごたくはさておき、シミュレーションです。

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シミュレーション回路

 こんな回路を書きました。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 理想定電流で固めた、リアリティのないシミュレーション回路ですが、実機もこれと大差ない構成で成立するでしょう。

 だいたい回路図を見ればどんな回路かはわかるかと思いますが、一つだけ言い添えておくと、この定数で終段アイドリング電流は10mA程度になります。

 ちょっと工夫している点としては、思うところあって補正容量を出力端に繋いでいます。たまにオペアンプのデータシートなどで見かけるので、新規性のある方式ではありません。インターネットではこんな解説を見かけました。

位相補償について[24]・・・イワークの低歪位相補償法 ( 工学 ) - 電子工作、エレクトロニクスの寄り道 - Yahoo!ブログ

 「思うところあって」というのは、(おそらく)第二ポールになっている終段の位相回転をNFBで消したかったということです。

 さて、先に断っておきますが、今回はオープンループゲインしか見ません。シミュレーション上の歪率はどうせ-120±20dB程度の数値になるであろうことが、NFB量から想像できるからです。

 ではオープンループゲインはどのように決定しているのかというと、まず低域側ではC1は無視できますから、初段、二段目の増幅回路のコンダクタンスと、それぞれの出力端の低域インピーダンスで素直に決まります。高域側は、初段出力端に二段目の補正容量(C1がミラー効果で拡大された容量)がかかってきて制限されます。単純ですね。

 今回、シミュレーションではC1を変動させてオープンループゲインの変化を見ています。ぶっちゃけ、ほぼ理論的に決まるところなのでそんなに面白くないのですが、AC解析の結果を見せます。

オープンループゲイン
オープンループゲイン

 まあ、思ったとおり、というか。低域ゲイン100dB。C1は100pFでも十分ユニティゲイン安定になると思います。

 特徴的なのは、出力端から帰還しているおかげで第二ポールがほぼ動かず、また第二ポールのfcギリギリまで位相の回転があまりない(ただし第二ポールにさしかかってからは急激に回る)ことです。

 C1が400pF, 800pFのときは超高域(40MHzくらい?)に怪しい盛り上がりが見えます。どうやら、二段目のC1の「左側」に100Ω以上の直列ゲート抵抗を入れると、落ち着くようです。初段の出力インピーダンスが高周波領域でまずいことになっているのかもしれません。

考察に代えて

 このような構成のワイドラー型アンプでは、高域はひたすら-6dB/Octで下がっていきます。ということは、ユニティゲイン周波数が決まればどの帯域でどれくらいのゲインがあるか定まる訳で、これは性能見積もりに使えます。

 たとえば、この回路でC1を100pFにした場合、ユニティゲイン周波数は10MHz弱。ということは、1KHzではオープンループゲインは80dB弱です(6dB/Oct=20dB/decだから)。

 当然ながらオープンループゲイン以上に負帰還をかけることはできません。とりあえず、ユニティゲイン安定できる位相補償になっているので、全帰還してみたとします。そうすると80dB弱の負帰還ですから、裸特性が1%(-40dB)前後の歪率だとして、1kHzで-120dBの歪率になる訳です。

 もちろん歪率は裸特性によって多少変動しますが、裸で10%の歪率というのは相当悪い部類ですし、裸で0.1%以下というのもかなり良い部類ですから、だいたいこの間には収まるような気がします。-120±20dB程度というのはそういう根拠があって言った数字だったのです。

 なお、これはあくまでもシミュレーション上の数値で、実機でそんな数字は恐らくは出ません。まずノイズが多くてそんな領域は測れないですし、差動のペアが非対称だとか変なところに非線形性があるとか、実機特有の性能悪化要因がたくさんあるからです。

 とはいえ、他の形式の回路をシミュレーションしてみても、これより悪い数字になることが基本的に多い印象です。理由は単純で、こいつほど低域ゲインが稼げないのと、増幅回路の負荷が低い(=たくさん電流を変動させないと電圧振幅を発生させられない)から。

まとめ

 まあなんていうか、普通の回路なんですが、割と扱いやすいのでシミュレーションするのは好きです。

 実際に組むにはつまらないと思ってしまうので、他の方式が流行る理由もなんとなくわかるような・・・。

続き

 続きを書きました。

www.audio-simulation.net