オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



B級アンプドライブA級アンプ

概要

 B級アンプでカスコードの如くA級アンプをドライブする形式のアンプがあります。上条氏が研究していた回路です。これなどがそうです。

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 狙いは、A級の低歪みさとB級の電力効率の良さを両立させることです。基本的にAB級より冴えたやり方です。ただし、重厚な構成が必要になります。

シミュレーション回路と原理の説明

 先に回路を示します。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 左が目的の回路で、右は単なる比較用です。

 左の回路も2つのバッファがありますが、左と右は同じ入力信号で駆動される役割の異なった回路です。うち、左は電流の供給を担うB級アンプ、右が電圧を伝達するA級アンプとなります。その間にあるのが、A級アンプの電源になるフローティング電源です。正負5Vを想定しています。

 信号電圧の伝達に注目して考えると、基本的にはA級アンプがそのまま出力します。一方、電流はB級アンプが供給し、フローティング電源とA級アンプを貫通して負荷に流れます。

 さて、無信号時の消費電力について考えてみます。

 今回は信号にピーク16Vの正弦波を入れます。8Ω負荷でA級動作したければ理論的には1Aのアイドリング電流が必要ですが、低電流領域ではgmの湾曲がきついので、上の回路ではもう少し余裕を見て(A級アンプ側に)1.2A流すことにしています。B級アンプ側はたった100mAとしています。

 ということは、

1.2 A ・ 10 V + 0.1 A ・ 48 V = 16.8W

 の消費電力になります。たかだかこの程度でピーク電圧16Vまで「いちおう」A級動作する訳です。なお、右の比較用回路は同一消費電力の設定にした通常の回路ですが、こちらはたった0.35Aしか流せていません。また、素直に純A級で同じ1.2A流したとすると60W弱になりますから、消費電力も大きければ放熱もつらいし、そもそもシングルプッシュプルではきついのでパラに……といった話になってくると思います。要するに、とても効率が良い訳です。

シミュレーション結果

 あまり深い意味はなかったりしますが、適当に取った電流波形です。

電流波形
電流波形

 出力FFTです。赤色のV(n013)はA級アンプをドライブする一番左のBアンプの出力です(参考データ)。

出力FFT
出力FFT


 まあ見ての通りというか、いくらFETのドレインがハイインピーダンスと言ってもB級アンプのスイッチング歪みがまったく貫通してこないなんてことはなく、普通に出力に現れます。それでも2次で通常の方式と比較して20dB程度の優位があります。スイッチング歪みが大きく現れる高次では40dB以上の改善が生じています。

だめなところ

 チャンネルごとにフローティング電源が必要なので作るのがつらい。ただし、高出力A級アンプ(50W以上とか)はどのみちパラプッシュプル、放熱器のコストがつらくなるので、うまく部品を選べば同程度のコストで建造できる可能性があります。

まとめ

 これはかなり優秀なアイデアなので、やればできます。ただし、自分で作るかと言われれば、熟考した末に出力を捨てます。