オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



金田式PP(プッシュプル)レギュレータの秘密(効能)

はじめに

 金田式PPレギュレータについては「アレは効くのだろうか」というもやもやした疑問がずっとあったので、シミュレーションで見てみます。

シミュレーション

 シミュレーション回路を以下に示します。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 左が通常のシリーズレギュレータ、右がプッシュプルレギュレータです。よくあるタイプのSEPPバッファを負荷に入れていますが、こちらのアイドリング電流は12.5mA程度です。金田式と同等の設定にしてあります。

 プッシュプルレギュレータのプル側は、負荷に12.5mA流した状態で0.6mA程度の電流が流れています。極めてB級に近いAB級という感じでしょうか。

 バッファに最大値4Vの1kHzサイン波を入れたときの電源電圧波形です。

電源電圧波形
電源電圧波形

 よくわかりませんが、シリーズレギュレータでは跳ね上がります。プッシュプルレギュレータは大丈夫です。

 超拡大した上側ドレイン電流波形と組み合わせて見てみます。

ドレイン電流波形追加
ドレイン電流波形追加

 なんと、「負の電流」がドレインに流れています。負荷側から電流が流れ込んでいるということです。そうなる理屈はわかるようなわからないような……。まあ、負側の半サイクルの前半、出力電圧がどんどん負の方向に伸びていくときに上側FETのドレイン・ソース間の容量がチャージされて、半サイクルの後半、出力電圧が上がっていくときにその容量を通じてVCCを押し上げる、という理屈でしょう。

 この時点でシリーズレギュレータの出力はハイインピーダンスになっているので電源電圧が跳ね上がりますが、プッシュプルレギュレータは問題なくこの電流を引き抜けます。

出力FFT
出力FFT

 出力FFTでも効果は確認できます。入力信号が1kHzと高いので高い周波数にノイズが分布しているように見えますが、100Hzとか10Hzとかの信号でも同様の現象が起き、その場合は普通に可聴域にノイズが入ってくることに注意。

まとめ

 要するに、はっきりと「効く」と言って良いと思います。

 ただ、アイドリング電流が12.5mAという極端なB級動作であるからこれだけ顕著な効果が現れるのであって、A級動作であればこの問題は発生しないと思われます。そういう意味では、電池式時代の金田式だからこそ必要だった回路という捉え方もできます。今は使っているのかしら?

 また、信号の周波数が高ければCで吸収する方針も取れるので(デジタル回路ではそれが普通)、汎用的にいろいろな回路に応用できるというテクニックでもないでしょう。あくまでもアナログB級アンプで顕著に効く、ということです(アナログパワーアンプなんてほぼAB級なので、パワーアンプなら効果があるとは言って良いと思うが)。

 ただ、ここまで顕著に効果が見えるとは思わなかったので、少し意外な気がしています。