オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



差動アンプと二次歪みについて

はじめに

 理想的な差動アンプはクリップするまで二次歪み(というか偶数次高調波)を発生しないという説があります。

 確認してみましょう。

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シミュレーション

差動アンプの回路
差動アンプの回路

 このような回路で、Vpp=0.2Vの1kHz正弦波を与えてみます。100サイクルほど回して負荷抵抗の電圧をFFTで見ました。

FFTで見た出力電圧
FFTで見た出力電圧

 確かに三次歪みよりは小さいですが、あるにはあります。

 ちなみに、実際には以下のような数値になっています。

 主信号:-20dB
 二次歪み:-111dB
 三次歪み:-91dB

 主信号-20dBはほとんど電圧ゲインがないことを示しています。もう少し電流を多めに流してgmを稼ぎ、負荷抵抗を高くすればこのFETでも10倍程度のゲインは容易に得られます。

 それはそれとして、偶数次高調波が発生するメカニズムについて考えると、

  • 差動回路自体は対称だが、入力の与えられ方は対称ではない
  • つまり片側に信号入力が与えられ、もう片側が接地されているという回路では差動の中点電位が上下し、これが偶数次高調波を発生する
  • 対称な信号を与えれば改善する

 という仮説が思い浮かぶので、ちょっと試してみます。

入力を対称化した差動アンプ
入力を対称化した差動アンプ

入力を対称化した場合の出力信号FFT
入力を対称化した場合の出力信号FFT

 微妙に2kHzが盛り上がっている気はしますが、FFTも完全ではないでしょうし、こんなものだと思います。二次歪は-165dBまで改善しました。他は変化ありません。

 対称合成で歪が消えるためには、入力も対称である必要があるという、至極常識的な話でした。

 なお、現実的な振幅ではこの問題はほとんど気にならないと思います。

まとめ

 ほとんど対称と言っても良いですが、現実の非対称な入力信号では二次歪みが残存します。バランス入力では理論的には偶数次歪みはすべて消滅します。