オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



カレントミラー各種のインピーダンス・周波数特性

はじめに

 カレントミラーはオーディオアンプやオペアンプでよく使われる回路です。

 気楽に電流折返しを実現できますが、その性能について深く検討されることは少ないようです。

 そこでシミュレーションを使い、簡易的に見てみることにします。

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説明

 見るべきものは出力インピーダンスです。DCから低周波領域でできるだけ高い値が得られ、高周波でもあまり出力インピーダンスが下がらないカレントミラーが理想に近いと言えます。

 カレントミラーには様々な種類がありますが、故上条信一氏のページを参考にして、いくつかのカレントミラー回路を書いてみました。

 上条氏のページ:Current mirror

 シミュレーションの対象にするのは以下の5種類です。

  1. 何の工夫もない普通のカレントミラー
  2. 1に100Ωで電流帰還をかけたもの(以下他のカレントミラーにもすべて100Ωを挿入します)
  3. ベース電流補償型
  4. ウィルソン型
  5. 高精度ウィルソン型

シミュレーションする各種カレントミラー回路
シミュレーションする各種カレントミラー回路

 これらの電流出力(入力は5mAの理想定電流源)を1Vの交流電圧源で振ってあげます。そのとき流れる交流電流を用いて出力インピーダンスが計算できます。

 結果のグラフを以下に示します。

各種カレントミラーの出力インピーダンス特性
各種カレントミラーの出力インピーダンス特性

 緑色の線が回路図上一番左側の何の工夫もないカレントミラーで、低域の出力インピーダンスは20kΩ程度得られているようです。ということは、能動負荷として高インピーダンスを確保したい用途ではまったく使えません。電流帰還として100Ωを挿入した場合(青い線)は400kΩ弱の出力インピーダンスが得られています。

 カレントミラーにこの抵抗を入れていない作例も見かけますが、

  • 上述の通り、出力インピーダンスが極めて低下する
  • 左右のトランジスタの動作の違い(個体差、必ず生じる動作点および温度の差)を吸収できない

 と、入れないことによるデメリットは極めて大きくなります。入れることによるデメリットはほとんどないので*1、基本的には入れた方が賢明です。

 次にベース電流補償型ですが、電流帰還のみと比べて若干の改善が得られているようです。とはいえ、この程度の差異を重視する必要はないと思います。同じトランジスタの数なら、次のウィルソン型の方が有利です。

 ということでウィルソン型ですが、極めて高い出力インピーダンスが得られています。また、高精度ウィルソン型もほとんど同じカーブになっています。出力インピーダンスはおよそ3MΩです。

 ということで、こうして見ると、簡易的にそこそこの性能にしたければ電流帰還を施し、高性能を求めるならウィルソン型や高精度ウィルソン型を用いれば良いことがわかります。

 なお、上のグラフを見ると、高出力インピーダンスタイプのカレントミラーは低域の出力インピーダンスが高まった分、低い帯域から出力インピーダンスの低下と位相回転が始まっているようにも読み取れます。これは基本的には見かけの問題で、実用上あまり問題にはならないはずです(等価並列容量は変わらない)。あまり心配する必要はないはずですが、そういうことがあるとは意識しておくべきかもしれません。

まとめ

 ウィルソン型がよかったです。

*1:僅かな電圧降下――常識的な定数であれば大きくても1V以下――が主なデメリットです