オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



古典・エミッタ接地+ブートストラップ

はじめに

 古典の回路を試してみます。ブートストラップというテクニックです。

 よく知られたものですが、エミッタ接地+フォロア型の回路で、フォロアの出力から負荷抵抗にCなどの定電圧性の素子をつなぐことで負荷抵抗を「ほぼ」定電流回路として作動させることができ、結果ゲインが稼げます。

シミュレーション

 シミュレーションを行った回路を以下に示します。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 左端が通常のエミッタ接地、真ん中がブートストラップ、右端が定電流負荷(直流バイアス安定のため若干のDC帰還を付与)です。

 まずAC特性で裸ゲインを見てみます。

裸ゲイン特性
裸ゲイン特性

 ブートストラップは抵抗1本とコンデンサ一つで20dB程度ゲインが稼げます。定電流と比較してもさほど遜色ありません(ただしコレクタの出力インピーダンスとフォロア段の入力インピーダンスがたかだか数100kΩということを考慮すべき。こちらの制約が主なのでゲインが伸びない)。

 なお、歪みに関しては3つともほとんど差はありませんでした(絶対値としては0.1%前後。差異は2次で6dB以内で、誤差レベル)。ブートストラップが駄目という訳ではなく定電流でも歪みが他と変わらなかったので、この回路はNFBによる改善が現れづらい可能性があります。

考察

 とにかく部品点数をケチれるのがこの回路の良いところですが、これがアンプの二段目に使われた60~70年代頃(で合ってますよね?)といえどトランジスタはさほど高価な部品ではなかったはずで、定電流回路などにしないで絶対性能で劣るこちらを選んだ理由は割と謎だったりします。

  • 当時のトランジスタの特性を考えるとこっちの方が良かった

 考慮する要素はコレクタの出力インピーダンスと雑音でしょうか。極性のことを考えると増幅側に特性の良い素子を使いたい訳で、そうすると特性の悪い極性の素子で組むことになります。確かに難しいかもしれません。

  • 電圧降下を嫌った

 これはまあ、ないと思う。確かにブートストラップだと電源電圧まで出力可能(どころか電源電圧から上も交流的には出せる)ですが。

  • トランジスタの信頼性を信じていなかった

 ここが逝くと出力に電圧増幅段電源電圧がどかん、です。定電流回路よりはこちらの方が信頼性は高いでしょう。でも、他の部分にも同じようなリスクはある訳で、取り立ててここだけ気にした可能性は低いんじゃないかなぁ。

 まあ、たぶん特性的に辛かったのでしょう。

 今日的な意義は? とても限られます。基本的には定電流回路の下位互換だからです。それでも能動素子の動作が怪しくなる高周波回路では使える可能性がありますが、低周波では使いみちがありません。

 妥協してシンプルなアンプを組みたいとか、そういう趣向ならありかもしれません。でも定電流ダイオードあるからなぁ。

まとめ

 けっこう考え方としては面白い回路なんだけど、使いみちは・・・

 状況を選べば他と遜色ない性能なのは確認できました。