オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



スーパーリニアサーキットのシミュレーション

概説

 スーパーリニアサーキットはパイオニアの開発した低歪み増幅回路です。

 という説明はこのページを見るような人には必要ないですね。淡々とシミュレーションしていきます。スーパーリニアサーキット自体の解説はググると幾つかヒットするようなので、そちらを参考にしてください。

気をつけるべき点

  • いわゆるSEPPフォロア型の回路にする場合、SLCだけでは理想バッファみたいなもののため、動作点が定まりません。抵抗を入れてgmを有限に落とせば使えます。
  • 見方によっては正帰還の一種です。条件次第では無限大の電流が流れる(そして壊れる)パターンがあります(帰還量が過剰になり出力インピーダンスが負になった場合)。
  • また、帰還なので高周波の安定性に気を遣う必要があります。

 要するに、それなりの配慮をすれば簡単に動くということです。

シミュレーション回路

 シミュレーションを行った回路を以下に示します。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 2種類のバッファ回路を用意して200Ωという比較的重い負荷をドライブしてもらいます(軽い負荷だと歪みが見えないので無意味)。入力は1kHz 1Vrmsです。

 左の回路はよくあるダイアモンドバッファの上半分……とでも言うべき回路です。まあ、これはこれで実用的なのですが、負帰還をかけないと良い特性にはなりません。

 右の回路はSLCの基本回路です。案外シンプルという感想を抱く人が多いでしょう。

 一応説明しておくと、まずC1815のエミッタとマイナス電源の間に入っている定電流回路が回路全体の動作点を定めます。説明しやすいので定電流回路を起点に考えると、ここの電流がC1815を貫通してプラス側のカレントミラーに流れ、カレントミラーの出力側がバイアス段のA1015に電流を流すことで動作点が決まります。入力が変動してC1815から負荷に対して電流が流れると、その電流がカレントミラーに拾われ、A1015にも流れます。C1815のVBEによる電圧降下とA1015のVBEの上昇が相殺しあって(理論上、理想コンプリなら)歪みがなくなります。

 また、500pFは高周波領域でスーパーリニアサーキットの動作を殺す役割を果たしています。これによって高周波領域の不安定性が消えます(シミュレーション結果は示しませんが、AC特性を見ながら決めています)。

 出力のFFTを示します。

出力のFFT
出力のFFT

 青がSLCで、見ての通り改善しています。各次数の高調波における改善幅は、

  • 2次:-23dB
  • 3次:-36dB
  • 4次:-50dB
  • 5次:-46dB

 といった数字で、次数が高めの高調波を中心に思いの外すばらしい改善が得られています。ただし、一番レベルが高い2次歪みでたかだか-23dBなので、歪み率としては1桁強前後の改善になるでしょう。

まとめ

 よかったです。エミッタ接地の代替としては割とベターな回路なんじゃないでしょうか。ワイドラーの二段目なんかに良さそうです。それもいずれ試してみます。