オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



スーパーリニアサーキット・ヘッドホンアンプ出力段(のつもり)

概要

 SLC(Super-Linear Circuit)を使ってヘッドホンアンプ出力段に適した回路をシミュレーションしてみます。

シミュレーション回路

 以下にシミュレーションに用いた回路を示します。3回路同時にシミュレーションしている都合上、画像が大きいです。適宜拡大してご確認ください。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 一番左がいわゆるダイアモンドバッファ、真ん中が愚直にSLC化した回路です。動作点を定めるために入力側バイアス、出力側エミッタ抵抗(5ohm)を追加しています。右はコレクタから抜けていく電流を有効活用するための回路で、電力効率がよくなるほか素子1つが負担する電流が少なくなり歪みの改善にも役立ちます。

結果

 入力に1kHz・1Vrms与えたときの出力のFFTを示します。

出力FFT
出力FFT

 SLCの効果がはっきり現れています。真ん中と右の回路では、2kHzのレベルだけは真ん中の回路の方が若干低いのですが、3次以上の歪みでは右の回路の方が優秀で、特に5次以降で顕著な差が出ます。ドライブ段の動作点の苦しさ(なにせVCEが0.75Vなので)と電流半減効果のどちらが優勢になるかの差といったところでしょうか(あるいは単に対称性が悪くてオフセット等が影響している可能性もある)。

NFBループに組み込んだ場合の性能

 やろうと思って実験しましたが、SLCの高周波特性が荒ぶって動かすのが難しいので伏せます(恥ずかしくて見せられない)。この回路は位相補償が難しいのではないでしょうか。

 浅めのNFBを前提にすればやれなくはありませんが、ポン付けでオペアンプの外付けバッファという構成は難しい可能性が高いです。

 追記:シミュレーションできました。

www.audio-simulation.net

考察とまとめ

 アンプとして仕立て上げるのは大変そうだけど、単にバッファとして動かすなら比較的簡単なはずです。

 課題点としては、以下のようなものがあります。

  • 高周波の位相特性
  • 基本的にhfe倍の電流増幅率しかないので電圧増幅段に直結は無理。ドライブ段を設けるか、最初からFETで組むべき
  • 0.15Vとかのバイアス電源を作るのが難しい。ダイオードでは無理なので、現実的な解は抵抗+定電流とかでしょうか。15Ωで10mA流せばできますから

 難易度が高いけど、やる価値がないという訳ではない(ただし難易度が高いので高度な設計技術と高級な測定器がないときつい)という位置づけになりそうです。

 なお、スピーカー用パワーアンプでも基本的に同じメソッドで作成できますが、大電流用の遅い素子を用いるためこちらも難易度は更に高くなるだろうと書いておきます。