オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



トランジスタバイアス回路のインピーダンス特性

はじめに

 SEPPアンプ等で、トランジスタ一石のバイアス回路がよく使われます。電圧マルチプライアーと呼ばれたりするような回路です。この回路は両端電圧が負の温度特性を持ち、温度補償に適しているため広く使われています。

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IR1=VB/R2
VC=VB+IR1*R1
もしくは
VB=VC*R2/(R1+R2)
VE=VB-VBE

出典:個別半導体のノウハウ

 この回路を素で使っている作例も見かけますが、高周波で十分な低インピーダンスが保たれているかは懸念があります。そこでシミュレーションで検討します。

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シミュレーション

 シミュレーション回路を以下に示します。

バイアス回路のシミュレーション回路
バイアス回路のシミュレーション回路

 このような回路で確認します。流している電流は5mAで、ほとんど(4mA以上)がトランジスタに流れます。この定数での両端電圧は約2.37Vです。

 AC解析で、バイアス回路両端電圧を流れる電流で割り、インピーダンスを求めます。

両端のインピーダンス
両端のインピーダンス

 低域のインピーダンスは30Ω程度です。ご覧のように、1MHz以上の高周波領域が悲惨なことになっています。ベース・コレクタ間抵抗に近い値まで上昇するのではないでしょうか。

 このインピーダンスが上昇している帯域は、帰還量が1になるシビアな帯域と一致しています。カレントミラー合成のような上下からドライブされる回路であれば相対的にマシになりますが、そうでなければ色々とまずい結果をもたらすでしょう。

 対処方法は至ってシンプルで、適当な大きさのコンデンサを両端に入れてあげれば解決します。

対策をとった回路
対策をとった回路

両端のインピーダンス(Cあり)
両端のインピーダンス(Cあり)

 低周波は相変わらず約30Ωですが、高周波に向かってはCのご利益でインピーダンスが低下していきます。Cを入れなかった場合のようなインピーダンスの上昇は見られません(理想素子でシミュレーションしているので、現実では超高周波ではここまで綺麗にはならないはずですが)。

まとめ

 Cは必ず入れるべき、ということですね。

 具体的な部品としては、0.1uFから1uF程度のフィルムコンデンサが適しています。温度補償型の積層セラミック等でも構いません。