オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



クロス・フィードフォワードの理論

概要

 通常のフィードフォワード・パワーアンプでは、どんな方式にせよ補正アンプの歪みが野放しになるという問題があります。

基本的なフィードフォワード回路の例
基本的なフィードフォワード回路の例

www.audio-simulation.net

 しかし、理論的には補正アンプの歪みもフィードフォワードで解消できるはずです。補正アンプの補正アンプに何を使うか? 上のような負荷両端電圧補正型のフィードフォワードであれば、主アンプを補正アンプにすることができます。互いに互いが補正しあうことで、理論的には無歪みのアンプが作れます(補正系の誤差が0で完璧に補正できれば。これはNFBにおけるゲイン無限大と同等と考えられ、実現不可能)。

 その方法について検討します。なお、この方法は私のオリジナルですが、先に考えついた人はいるかもしれません。

理論

 基本的にはこれで良いはずです。

クロス・フィードフォワード基本回路
クロス・フィードフォワード基本回路

 考察のためにゲイン1で考えますが、実際には任意のゲインに設定できます。

 理論的な無歪み性の証明は、以下の通りです。

  • とりあえず、アンプの入出力特性を関数 fを使って f(V) = V + e_f(V)のように書くことにする。 Vが入力。 e_f(V)は誤差項で、入力 Vに応じて誤差の値が定まることを表現する
  • 主アンプの入出力特性を f(V) = V + e_f(V)、補正アンプの入出力特性を g(V) = V + e_g(V)とする
  • 解析しやすいように各点に記号を振る

記号を振った回路
記号を振った回路

  • あとは淡々と代入して解いていく

\begin{align}
V_{out} &= b - c\\
a &= in + e\\
b &= a + e_f(a)\\
c &= d + e_g(d)\\
d &= b - a = e_f(a)\\
e &= c - d = e_g(d)\\
\\
V_{out} &= b - c\\
&= a + e_f(a) - d - e_g(d)\\
&= in + e + e_f(a) - e_f(a) - e_g(d)\\
&= in + e_g(d) + e_f(a) - e_f(a) - e_g(d)\\
&= in
\end{align}

  V_{out} = inなので無歪みパワーアンプとして成立しています。

この方式の限界

 最初にも書いた通り、無歪み加減算器がないと成立しません。無歪み加減算器なんてゲイン無限大のオペアンプでも持ってこないと作れないので、現実の回路では歪みが残ります。

 通常のNFBと併用することは可能なので、NFBで取り切れない歪みを低減する用途に使える可能性はあります。0.01%とかの歪みを正確に検出できる加減算回路が作れればの話ですが(抵抗の精度に負けるので現実的にはほぼ無理と思われる)。

 あるいは、無帰還バッファと組み合わせる用途でしょうか。1%くらいの歪みなら検出もなんとかなります。完全に趣味性の塊ですが、NFB嫌いの人には良いかもしれません(補正系でオペアンプ使うから実質的にNFBの塊みたいなものでは? とか言ってはいけない)。

 また、軽くシミュレーションしてみた感じだと、高域で補正を頑張ろうとした結果、補正系の位相ずれに起因すると思われる高域ピークができます。広義の発振現象みたいなものっぽいので、高域では補正系のゲインを落とす必要があります。

発展

 上のブロック図はオペアンプ3つ+バッファ2つとかで作れますが、オペアンプをもう一つ増やすとBTL動作しつつクロス・フィードフォワード動作というのも可能です。まあ上のブロック図でも主アンプがクリップした後補正アンプが頑張って正負電源電圧と同じ振幅を出せますが、クリップしたものを歪み補正でなんとかするよりは最初からBTL動作の方が性能も音質も優れていることでしょう(普通はクリップする領域までなんか音量出さないだろうけど・・・)。

 4回路入りオペアンプはオーディオ用の高級なので数百円ですから、BTLアンプに低コストでフィードフォワードの味付けを加えることができます。

まとめ

 実用性はなさそうだけど、こんな方式も理論的には考えられるよね、ということで紹介してみました。ご自由にお使いください(勝手に特許出したりはさすがに困るけど・・・まあやる人もいないか)。