オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



スーパーフィードフォワードの理論

概要

 スーパーフィードフォワードに関する考察もこれで3記事目です。今回は理論面について考察していきます。

 過去の記事
www.audio-simulation.net
www.audio-simulation.net

サンスイの公開特許公報

 いい加減これがないと記事を読んでいる人が困るだろうという判断のもと、特開昭54-047558に記された理論面の基本的な引用を転記します(数式の書き起こしが大変なので現時点では画像キャプチャ。いずれ書き起こすかもしれませんが……)。

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特開昭54-047558

 これを基礎とします。

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(自分が)わかる説明

 スーパーフィードフォワードによって歪みが補正できる原理は一応は上の資料に示されていますが、実際問題として私は上の数式を見ても「なるほど」とは思えませんでした。もう少し噛み砕いて考えてみます。

 e_0 = \frac{R_L}{Z+R_L}\cdot e_2 + i \cdot \frac{Z\cdot R_L}{Z+R_L}\ \cdots (2)

 これに関しては良いと思います。最終的な出力電位を、

  •  e_2という主アンプ出力の出力の Z R_Lによる分圧
  •  Z R_Lの並列のインピーダンスに対して流し込まれる電流 i

 によって説明している式です。
 e_1 = (e_i - e_2\beta )A_1\ \cdots (3)

 これは e_1というノードの電位を説明するもので、負帰還がかかった差動増幅回路の定義そのものです。

 e_2 = e_1A_2 = A_1\cdot A_2\cdot (e_i - e_2\beta) \  \cdots (4)

 これは(3)式を使って e_2の説明ですが、見ての通り両辺に e_2が出ていますからまだ整理する余地があり、最終的には

 e_2 = \frac{A_1\cdot A_2}{1+A_1\cdot A_2\cdot \beta}\cdot e_i \  \cdots (7)

 という形になります(割愛)。

 ちょっと前後してしまいましたが、

 i = e_1g_m = (e_i - e_2\beta)\cdot A_1 \cdot g_m\  \cdots (5)

 これが iの説明で、回路3がVICであることを示しています。

 さて、次は(2)式を変形して e_1, e_2を消去し、ノード電位に関しては e_i, e_0だけ残して入出力特性の式になるようにしたいと考えます。 e_2は(7)式の通り e_iの関数になっていますが、 iは一見するとややこしそうです(実際サンスイの資料はややこしい式変形をやっています。ここからはオリジナルの資料とは少し違う方法で説明します)。しかし、ゲインを持つ増幅回路の入力は出力をゲインで割った値になることに思いを馳せれば、

 i = e_1g_m
 e_1 = \frac{e_2}{A_2}

 ですから、(7)式を代入すると、

 i = \frac{A_1\cdot g_m}{1+A_1\cdot A_2\cdot \beta}\cdot e_i

 となり、ちゃんと不要なものが消去できました。

 これらを(2)式に代入し、また整理するために

 a = \frac{R_L}{Z+R_L}

 と置くと、

\begin{align}
e_0 &= \frac{R_L}{Z+R_L}\cdot \frac{A_1\cdot A_2}{1+A_1\cdot A_2\cdot \beta}\cdot e_i + \frac{A_1\cdot g_m}{1+A_1\cdot A_2\cdot \beta}\cdot e_i \cdot \frac{Z\cdot R_L}{Z+R_L}\\
&= a\cdot e_i \cdot A_1 \Bigl( \frac{A_2+g_m\cdot Z}{1+A_1\cdot A_2 \cdot \beta} \Bigr)
\end{align}

 となり、資料の大掛かりな式変形の上から二番目の式まではたどり着きました。

 ここからはちょっと結論ありきな感じになってしまうので申し訳ありませんが、 A_1, \betaをカッコの外にくくりだすと、

 e_0 = e_i\cdot \frac{a}{\beta}\cdot \Bigl(  \frac{A_2+g_m\cdot Z}{A_2 + \frac{1}{A_1\cdot \beta}} \Bigr)

 となり、これで(1)式に繋がります(分子分母が等しくなる条件= A_2と入出力特性が無関係になる条件)。

NFBとの関係

  g_m = 0, Z=0とおいてスーパーフィードフォワード動作をなくすと

 e_0 = e_i\cdot \frac{1}{\beta}\cdot \Bigl(  \frac{A_2}{A_2 + \frac{1}{A_1\cdot \beta}} \Bigr)

 これは A_1を無限大にすることで無歪みになる、通常のNFBと解釈できます。

 逆に言うと、有限ゲインの現実のアンプでも、出力段の歪みをゼロにするのがスーパーフィードフォワード技術ということです(補正系が無歪みで、精度が完璧ならの話)。

まとめ

 今回は理論だけでしたが、なんとなくわかりました。