オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



ダイトーボイス DS-16IIの音質と使いこなし

はじめに

 今回は少し趣向を変えて我が家で使っているスピーカーを紹介します。

 タイトルの通り、ダイトーボイスのDS-16IIです。私みたいな金欠学生には最適なスピーカーです。一発1000円強で買えました(今買えるのかどうかは不明。コイズミのサイトでは出てこなかったし、他に売ってるサイトが見当たらなかった)。

 これを片チャンネル2発で30リットルくらいの箱に押し込み、そのままでは高域がしゃかしゃかうるさいわ、200Hzあたり(?)が膨れるわと到底ハイファイとは言えない音質になるところを、負性インピーダンスアンプで駆動してなんとか抑えています。

 こいつは、うまくやれば、ローコスト(ペア1万くらい、ほとんど箱代)で相当まともな音のスピーカーが手に入ります。箱がでかいことだけが欠点です。ただし、のほほんと使うと、満足の行く音は出てこないし、いじる手段ほとんどないしで火傷すると思います(傷は浅いだろうが)。ダイトーボイスのこれくらいの大きさのユニットなんて、どれも似たような傾向だと思いますが。

使いみちのコンセプトと特色

 まず理解しておかないといけないことは、現代風の解像度の高いクリアな音は出ないということです。また、ローエンドとハイエンドは出ません。サブウーファー、ツイーターを合わせたくなるかもしれませんが、今度は音色が合うものがありませんし、一発千円のフルレンジユニットに何千円もするサブウーファー、ツイーターを投資するなら、もう少し賢明なお金の使い方があるってものでしょう。

 ローエンドに関しては、なんとかフラットにできるのはたぶん100~120Hzくらいまでです(測ってないけど)。ハイエンドは明らかに可聴域内で落ちているのがわかります(やっぱり測ってないけど、15kHzあたりから?)。

 つまり、フルレンジとして妥協して使うべきです。そういうつもりで買うものです。

 ではフルレンジとしての特色について述べるとすると、まずFOSTEXのユニットなんかとは比べ物にならないくらいちゃちいマグネットが目に付きます。「え、こんな?」というくらいです。FE83とどっちが豪華なマグネットかなぁ、とかそんなレベルです。それでも能率は87dBを叩き出しており、要するに振動板を軽く、動きやすくして能率を稼いでいます。

 振動板が軽いというだけで涎を垂らすオーディオマニアの方は大勢いると思うのですが、いかんせん駆動力のマグネットが貧弱なので、トータルの余剰リソースがまったくありません。強力なマグネットなら、振動板を重くしたりダンパーをいじるとか、箱を工夫してドライブするとか、いろいろやれることはあると思うんですが、ダイトーボイスのユニットは基本的に放送用などの業務ユニットかOEM向けの組込み用ユニットなどを一般向けに売ってくれているだけですから、そういうオーディオ的に価値のある(=高コストな)設計とは無縁です。ただただ低コストで主要帯域を再生することだけを考えています。

 ではミッドローからミッドハイのあたり、音圧として出てくる帯域ではどうなのか? というと、これはけっこう良いです。悪かったら捨てます。振動板面積から来る余裕のあるミッドローの再生能力と、メカニカル2wayのサブコーンのおかげで出てくる意外と清涼感のあるミッドハイという感じです。そのあたりがこのユニットの良いところです。特に高域は「なんでこんな野暮ったいユニットから、ここまで綺麗なハイが出るの?」という感じで、女性ボーカルとかハイハットなんかはとてもリアルに聴こえます。不思議なものです。

 ただし、振動板面積とメカニカル2wayのおかげで分割振動の音が出ているのか、はたまたフィクスドエッジのせいなのか、中域のあたりによくわからない「しゃくれ感」みたいなものをなんとなく感じます。それはそれで悪い音というほどでもありませんが、個性的ではあります。ギターなんかは演出がかって聴こえます。たぶんこの「しゃくれ感」がもっと上の方に行くと、小口径紙コーンフルレンジによくあるシャリシャリ、カンカンした高域になるんでしょうね。

 裏返せば、中低域と中高域が良くて本当の中域はよくいえば個性的、悪く言えばいまいちであり、最低域と最高域は出ないユニット、ということです。本当に、フルレンジ以外の使いみちは考えないほうが良いと思います。唯一あり得るとしたら、安く4wayを作りたいときのミッドバスでしょうか。他に思いつきません。

 私が買ったときは振動板面積のおかげで得られる実用領域~大音量領域にかけての低振幅・低歪みに期待しましたが(でなければ片チャン2発も使わない)、確かに振幅は抑えられるけど、磁気回路もエッジも悪いので相殺という感じです。明らかに大音量には向きません(歪んでキャンキャン言い出すのが耳でわかります)。そこそこの音量で流しておくとか、あるいはいっそニアフィールドで聴くと良い感じです。なんなんだろうねこれは。

箱は鬼門

 さて、ダイトーボイス系のユニットはパラメータもよくわからないし、作例もまともなものはほぼないので、箱に困る人が多いと思います。私はハードオフで中古のスピーカーを仕入れてきて、改造してそれに突っ込んだので、具体的な設計についてはコメントできません。30リットルの箱に2発も入れたけど、本当はもうちょっとサイズが大きいとベストになるだろうなぁ、という感じは薄々しています。1発20リットルあれば、一応足りるとは思います。

 基本はでかめの密閉箱に入れることです。というか、それ以外はありません。強いて言えばバスレフもやってやれなくはないと思いますが、思いっきり低域の品位を損なう割に大して帯域は伸びない印象があるので、おすすめしません。また、小さめの箱に入れるとだいたい抑圧的なつまらない音になるので、とにかくでかめの箱を確保することです。まあ、思い切り小さい箱に入れちゃえば低域のボリュームだけは稼げるので、1000円のユニットで低域がボーボー鳴って驚く! というのも作れなくはありませんが……(実はこれも試したけど、聴くに耐えなかったのでやめた) あとは背面開放とか、パッシブラジエータあたりとは相性が良いはずです。

 でかめの密閉箱ということは、箱のコストが本体の10倍くらいかかるのが普通ということです。また、置き場所にも困ると思います。

 素直に作ってもたぶん帯域バランスがいまいちな感じになるので、適当にイコライザで整えると良いと思います。ローを軽くブーストして、中高域あたりがなんとなくうるさいので少し落とすと良いでしょう。音質の良いグライコを持っていれば安心です。「イコライザの音質劣化が……」と気にする向きもあると思いますが、元が悪いですからシビアに考えなくて大丈夫ですよ。

 また、帯域バランスはアンプ側の出力インピーダンスでいじれるので、アンプを作れる人はそれで調整するのもありでしょう。私はそうしています。基本的に制動が足りないので、負性インピーダンスアンプ(電流正帰還アンプ)が要るはずです。-1Ωから1Ωあたりまでゲインを変えずに出力インピーダンスを連続可変できるアンプを作るととても捗る気がしますが、けっこう面倒臭そうではあります。私は2パラで-0.5くらいにしているので、1発なら-1Ωの負性インピーダンスアンプを作ればいけると思います。

 吸音材は、なんでも良いと思います。私は建築資材のグラスウールを買ってきて、ポリ袋入りだったので袋を破って取り出して入れました。ケーブルは、もっとなんでも良いと思います。高級ケーブルとかこのユニットには無駄、不釣り合いなだけなので、その辺の電線で結構です。ターミナルなども同様。

音質

 ここまでの記述で得心がいったと思いますが、使いこなすといい音です。

 でもハードルが高いので人には勧めません。普通の箱に入れればちゃんと鳴るユニットはお金を出せば手に入るものなので・・・

 以下は耳で聴いて違和感がない程度に帯域バランスを整えられたとしての話ですが、意外と綺麗な感じというのがやはり全体的な印象で、うまく下品な音が出ないようにセッティングすれば清楚な美人に化けます(それができるまではぶっちゃけブ○○クです)。まあ他の人がどう言うかはしりませんが、個人的には好きな音ですねぇ。

 ハイファイかというと二次・三次・四次あたりの高調波が出ている感じが聴いていてなんとなくわかるくらいなのでたぶん違います。耳に優しい歪みという奴ですね。真空管アンプみたいなものです。

 再生系やアンプの違いはけっこう反映する方のはずです。何で鳴らしてものほほんと鳴るスピーカーではないと思いますが、普通に低歪みで高性能の半導体製のものを持ってくればオッケーなはずです。真空管アンプなどはたぶん合わないと思います(繰り返すが、基本的に制動不足)。

 あとは定位についてですが、点音源系スピーカーのくっきりした定位は期待しないでください。何をどうやっても最良でユニット口径くらいの音像になります。

まとめ

 ダイトーボイスのユニットはけっこう面白いし、聴いているともうこれで良いかなと思うんですが、使いづらいというのが率直なところです。

 また選ぶか? というとたぶん選ばないんですが、これはこれで他では得られない音だと思う。

 言いそびれたので最後に書きますが、最大のメリットは「自作アンプを繋いでうっかり飛ばしちゃっても惜しくないこと」です。もしかするともう入手難かもしれないので、ちょっと今後は考えますけど、基本的にダイトーボイスのユニットはそういう使い方が適しています。