オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



A級シングル出力段の歪み

概要

 半導体アンプでもA級シングル出力段はたまに試みられることがあります。

 定電流負荷のフォロアで考えるとして、電流で見た効率はA級PPの半分になり、つまり電力効率はA級PPのたった1/4です(二乗で効いてくるので)。正気の沙汰ではないのですが、それはともかく消費電力を度外視すればやってやれないことはありません。

 少し気になるのは、歪みがどうなるのかということです。直感的にはA級PPは上下の素子がパラになっているようなものだから、シングルにしてしまえば歪みは悪化するだろうという気がします。

 シミュレーションで確認してみます。

シミュレーション

 シミュレーション回路を以下に示します。

シミュレーション回路
シミュレーション回路


 せっかくなのでオペアンプで全帰還をかけています。AC特性は厳密に評価しませんが、発振しないことだけは確認しています。

 ドライバ段、出力段のアイドリングはどちらもともに26mA,1.5Aです。

 1kHz正弦波で約1Wを出力させます。

FFT
FFT

 シングルは28dBほど2kHz(二次歪み)のレベルが高いという結果になりました。ただしオペアンプで多量の帰還をかけているので、それでも-130dBですが。

 三次歪みの差は10dB未満であり、五次、七次は若干逆転しています。あえてシングルのメリットを書くと、次数の高い歪みほどシングルの方が出づらい傾向になります。10次以降ではシングルの方が歪みが少ない次数が多くなります。ただし、微々たる差ですが。

考察

 シングル出力段の特色は巨大な二次歪みで、PPではこれが抑制される効果で1桁以上の歪率の改善をもたらします。

 それ以外の特性は思いの外変わらないので、シングルは二次歪みが好きな人に向いています。

 また、PP合成の破綻に起因すると思われる微妙な歪みは減る可能性がありますが、少なくともA級PPと比べて顕著な差はありませんでした。B級PPであればスイッチング歪み・クロスオーバー歪みが発生するので、また違った結果になるはずです。

まとめ

 特にすごく良いというほどのものでもない。