オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



自作アンプのアース配線の考え方【基本編】

はじめに

 アンプを自作する上で避けては通れないトピックに、アース配線があります。

 たいていは極端に変なことをしなければ(ループとか)適当に太めの線で繋げば音はまともに出ますし、アース配線の良し悪しで音質が変わる……なんてことも正直感知できるほど変わるかどうかは疑わしいところですが、少しでもノイズが少なかったり特性が良かったりする配線方法を真面目に追求しようとすると、やはりそれなりに難解なのがアースです。ということで、アースについて考えてみます。
(オーディオアンプとシミュレーションというタイトルのブログですが、今回はシミュレーションは行いません)

基本編

 この記事は基本編なので、1チャンネルのパワーアンプについて考えます。つまり、以下のような回路です。

基本的な回路
基本的な回路

 これといって変なところはない、よくある構成だと思います。回路を構成するのは、入力アッテネーターと理想オペアンプと帰還回路と負荷のスピーカーと電源です。こんな単純な回路のアースについて考えます。

 とりあえず、回路全体の参照電位Vrefを決めましょう。

参照点を決定
参照点を決定

 回路図上ではこの点になります。実装では電源のケミコンのところでも良いですし、そこから引き出して基板の上にやってきたところで参照電位としても構いません。ただ、配線の都合のいいところにしないと苦労すると思います。

 参照電位といっても、別にここでシャーシや大地に落とせという意味ではありません(そうしたければそうしても良いですけど)。あくまでもそうみなすと考えやすい、ということです。一点アースの「一点」に該当します。よく言われることですが、参照電位が複数あって、更にその間に電源のリプルが流れたりすると台無しなので、そこはよく考慮してください。どこでも良いので一点に決めることです。

 さて、この回路ですが議論の余地なくまとめてしまえる箇所が2箇所あります。入力と出力です。

入出力をまとめ
入出力をまとめ

 まず入力側アッテネーターですが、ここは前段の接続機器(SRC)から流れてきた電流がアッテネーターを通って前段機器のGND(SRC GND)に帰っていくという信号ループなので、議論の余地なく一つにまとめます。ただ、実際の回路では高周波では入力容量が効いてオペアンプの入力端子に電流が流れますが、この記事では高周波のアーシングまでは考慮しませんし、実際問題として可聴域ではアッテネーターに流れる電流のほうが数桁大きいので(まともな設計なら)無視して構いません。

 もう一つ議論の余地がないのは負荷のスピーカーのアース端子で、ここは太い配線で最短で参照電位に落とします。出力段から負荷に流れた電流は電源の中を通って帰っていくという信号ループなので、こちらも議論の余地はありません。そうしないと出力インピーダンスに影響を及ぼします(長いスピーカーケーブルの抵抗や端子の接点抵抗に比べたら無視できるような数字ですが)。まあ、参照電位を電源の間にしてしまったのでそうせざるを得ないということでもあります。

 ということで5箇所のアースを3箇所にまとめられました。この3箇所は理想的には同一電位になるように処理する必要があります。ということで、一点アースにしてみるとこうなります。

一点アースした場合
一点アースした場合

 これはこれで論理的には正しいのですが、少し問題があります。回路図を見てもわかる通り、入力端子側のアースと帰還回路のアースがかなり長い配線になることです。実装でも、この辺のアースポイントは参照電位からは遠い場所に来ることが多いと思うので、一点アースしてしまうとこうなります。

 どちらもインピーダンスが高いノードなので流れる電流によって生じる電位差はたかが知れていますが、配線が長いと誘導などを拾って悪影響があるかもしれません。悪いことに、この二点は増幅回路の入力です。つまり、ここに生じた電位差はそのまま出力に(ゲイン倍されて)現れます。そう考えると、これはちょっとまずいですね。

 ということで、この二点を先にまとめるとこうなります。

共通アース
共通アース

 見ればわかりますが、この配線の仕方だと入力と負帰還でいわゆる共通インピーダンスを生じます。回路図上で帰還回路のアースポイントからVrefまでの間に生じた電位差が入力端子にも乗ってしまうということです。とはいえ、インピーダンスの高いノードで流れる電流が少ないので、無視してもそれほど不都合はありません。

 この2点については、短く配線できるなら一点アース方式、長くなってしまうなら共通でまとめる方式がおすすめです。状況に応じてどちらかを選びます。

 ということで、アース配線が完成しました。

この記事でカバーできていないこと

 シャーシアースについて触れませんでしたが、はっきり言ってどこでも良いです。別にシャーシがフロートでも良いくらいです(ただし感電対策を真面目に考えるなら大地には落とした方が良い。内部の増幅回路とつなぐかどうかはまったくの任意)。

 あえてシャーシアースの配線を引くのであれば、まず必ず一箇所に絞ってください。シャーシに電流が流れて良いことは一般的に言ってありません。また、入出力端子のアースなどとループを形成しないよう考慮してください。入出力端子のところでアースに落とすか、入出力端子をシャーシから浮かせて他のところで落とすかのどちらかになります。

 理想オペアンプを想定したので無視できましたが、回路形式によってはアンプ内部の増幅回路でもアースに落とすことがあります(真空管回路などはその方が普通)。そちらはそちらで適切なアース配線を考えないといけませんし、適切にデカップリングする必要があります。

 今回想定したのは1チャンネルのパワーアンプなので問題は少ない方ですが、これが筐体・電源を共有するステレオアンプになると途端に大変になります。モノラルアンプはこの方法で作れますが、ステレオアンプは別物だと思ってください。そちらはそちらで後日記事にします。

まとめ

 基本的なアースの考え方について説明しました。単純な回路でも意外と考慮することは多いということがわかっていただけたかと思います。