オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



疑似正負電源回路についてシミュレーションする

はじめに

 疑似正負電源、レールスプリッタ回路は単電源から正負電源を擬似的に生成する回路です。仮想GNDとも呼ばれたりします。

 これがどの程度の性能になるのかは疑問だったので、シミュレーションしてみました。


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シミュレーション回路

 今回は、

  • 正負である程度の電流を吸い込めるもの(マイナス側は10mAしか吸えませんみたいなのは論外)
  • 回路が単純なもの(オペアンプ禁止)
  • 昇圧、チャージポンプ系は避ける

 という条件で検討しました。そういう意味では、使える回路はほぼ一種類しかありません。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 一番左側の回路は比較対象の抵抗分圧+バイパスコンデンサです。真ん中と右はどちらも同じ仮想GND回路で、バイパスコンデンサの有無が相違点です。ちなみに、この回路でのアイドリング電流は5mA弱です。

 仮想GND回路はよく知られているものです。ヘッドホンアンプ界隈で有名なnabe氏のサイトなどでもまとめられています。

nabe.adiary.jp

 この回路の注意点についても一応書いておくと、

  • アイドリング電流は多めに流した方が有利です
  • これはAB級SEPPエミッタフォロアなので熱暴走します。エミッタ抵抗をちゃんと入れましょう。バイアスと熱結合する、ヒートシンクを付けるといった対策も必要です
  • あまりベース側の電流をケチるとベース電流が足りなくなって気絶します。ベース側中点インピーダンス/hfeが出力側から見えるインピーダンスになるので、このノードのインピーダンスを十分下げる必要があります


 といったことが挙げられます。それほど極端に扱いづらい点はないかと思います。

シミュレーション結果

 そんなにたくさん見るべきことはないので、仮想GNDのインピーダンスだけ見ます。

シミュレーション結果
シミュレーション結果

 抵抗分圧+バイパスコンデンサは、理論通りのRC並列回路の特性になっております。ちなみにこの定数だと10Hzで8Ω弱なので、ヘッドホンアンプなら「使えない」ということはまったくありません。ただし、少しでもDCオフセット電流がGNDに流れ込んでいると電位がずれるので(しかも1mAで0.5Vも)、使いづらいことは事実です。

 仮想GND回路は広い周波数で5Ω強のインピーダンスになっているようです。能動素子頼りなので、低域と高域の位相は若干あやしく回っています。

 仮想GND回路+バイパスコンデンサの構成では、超低域は仮想GND回路が、30Hz以上の帯域はほぼバイパスコンデンサが特性を決めています。仮想GNDだけだと5Ωくらいになって微妙にインピーダンスが高いところ、コンデンサを追加するだけで100Hz以上でのインピーダンスを1Ω以下にできるので、割とお手軽に性能を改善できます。この回路はいいとこ取りなので、実用的にはこれを使えば良いでしょう。

まとめ

 仮想GND回路についてシミュレーションを行いました。10mA程度の消費電流で中点電位を5Ωにできるので、悪くない選択肢だと思います。

 電流を節約したければ減らすことは可能ですが、性能も悪化していきます。そういう意味では、スイートスポットは意外と狭いかもしれません。

 スペックだけ見れば直流で5Ωの電源は立派な部類です。ヘタなトランス整流式の電源より低い抵抗値なのでは? なので、もう少し脚光を浴びて良い回路だと思います。

 余談ですが、私はこれ類似の回路をUSB-DACのDCアダプタ駆動のフィルタ回路で使っています。いずれ機会があったらブログで紹介しようと思います。ちなみに、いろいろ組んでみて試行錯誤した結果、「この回路ではだいたいバイパスコンデンサに音質が支配される」という経験をしています(苦笑)。