オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



Zobelフィルタとアイソレータの効果をシミュレーション

はじめに

 Zobelフィルタとはアンプの出力(負荷)と並列にRC直列回路を挿入するもの、アイソレータは同様に出力(負荷)と直列にRL並列回路を挿入するものです。

 自作アンプでは省略されることも多いZobelフィルタとアイソレータですが、意外と馬鹿にできない効果があります。

 音質的にどうかはさておき、アンプ回路の高周波での安定性を確保するためには必ず入れたほうが良い回路です。その効果についてシミュレーションで確認していきます。

 目次

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シミュレーション対象とする回路

 今回は下のような回路でシミュレーションを行います。

シミュレーション対象とする回路
シミュレーション対象とする回路

 見ての通り、オペアンプ+フォロアという単純な構成のアンプです。実際に製作することは検討していません(実際に製作する場合、ドライブ段を追加して、バイアスの作り方を工夫する必要があります)。

 AC特性を見ておきます。

シミュレーション回路のAC特性
シミュレーション回路のAC特性

 特に問題はなさそうです。

容量性や誘導性の負荷にする

 この回路で負荷の条件を変えてみます。

 まず、1uFを負荷と並列に接続して、負荷を容量性にします。

容量性の負荷
容量性の負荷

 AC特性はかなり明確に変化します。

容量性負荷時のAC特性
容量性負荷時のAC特性

 このように位相余裕が減少します。この状態ではギリギリ発振には至っていませんが、より重い容量性負荷を繋げば発振します。

 次に、10mHを負荷と直列に接続して負荷を誘導性にします。

誘導性の負荷
誘導性の負荷

誘導性負荷時のAC特性
誘導性負荷時のAC特性

 意外なほど変化がありませんが、これは理想オペアンプ+フォロア構成のこのシミュレーション回路が、もともと負荷オープンであっても安定するためです。裸の出力インピーダンスが高い回路の場合、高域ゲインが高まって位相余裕が減少します。金田式完全対称アンプなどがそのようなアンプとして挙げられます。

 一応CとLを両方入れた場合のAC特性も示します。ほとんどCが支配的なようですが……。

両方入れたときのAC特性
両方入れたときのAC特性

Zobel+アイソレータ

 では、Zobelとアイソレータを挿入してみます。

Zobelとアイソレータを追加した負荷回路
Zobelとアイソレータを追加した負荷回路

 定数は一般的に使われているものを参考に決めました。

 この場合のAC特性を下に示します。

Zobelとアイソレータを追加した負荷回路
Zobelとアイソレータを追加した際のAC特性

 このように安定になります。共振に起因して100kHzあたりのオープンループ特性に位相の乱れが発生していますが、これはそれほど心配要りません。発振には繋がりませんし、そもそも実際の回路で1uFも容量がぶら下がることはまずありません。

考察に代えて

 RC直列のZobelフィルタは誘導性負荷(と、出力オープン)に、RL並列のアイソレータは容量性負荷に対処する効果があります。オーディオアンプは何がつながるかわかりませんし、スピーカーは純抵抗とは言い難い負荷です。なので、こういった措置をとっておくことにはそれなりの意義があります。

 これを入れることによる音質の劣化に関しては、それほど心配する必要はなさそうに思えます。どちらも可聴域にはほとんど影響しない回路です。まあ、強いて言えばZobelに使うコイルの品質には多少気を遣った方が良いかもしれません。

 Zobelに使うコイルは、空芯のもので良いでしょう。スピーカーネットワーク用などで適当な定数のものを調達することもできますし、自作したければ太めのポリウレタン被膜線をボールペンなどに10~20回巻き付けて作ることができます。コイルのインダクタンスの計算方法は電磁気学の教科書などにも載っていますから、計算して設計通りの定数にすることも可能です(5割程度の誤差は免れないでしょうが、それほどシビアに考える必要はありません)。

まとめ

 Zobelフィルタとアイソレータの効果をシミュレーションで確認しました。容量性・誘導性の負荷に対して高周波領域での安定性を確保するために役立つことを確認しました。

 アンプが発振気味になっても良いことはないので、ぜひ入れることをおすすめします。