オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



2SC1815の一石アンプで限界までゲインを稼ぐ

概要

 純然たる一石アンプでどこまでゲインが稼げるか興味があったので、計算とシミュレーションを行ってみました。

 設計上の制約として、単電源であること、無信号時の出力は電源中点とすること、定格を守ることを決めます。また、使う素子は2SC1815を1つと、RCのみです(Lを使うと交流ゲインを稼げるが、やめておく)。

設計

 まず、どの程度のゲインが稼げるか検討します。

 ゲイン A g_m R_Lから以下のように表されます。

\begin{align}
A = - g_mR_L
\end{align}

 ただし、バイポーラトランジスタの g_mは、

\begin{align}
g_m = \frac{I_c}{V_T}
\end{align}

 という式で表されます。ここで V_Tは熱電圧で、室温ではおよそ V_T = 26mVとされます。

 よって、 Aの式は

\begin{align}
A = - \frac{I_c}{V_T}R_L = - I_cR_L\frac{1}{V_T}
\end{align}

 と変形できます。この式中の I_cR_Lは、出力を電源電圧の中点とするためには自由に決定できず、以下の制約を満たす必要があります。

\begin{align}
I_cR_L = \frac{V_{cc}}{2}
\end{align}

 具体的な数字を当てはめて考えると、2SC1815のエミッタ・コレクタ間電圧の定格は 50 Vですから、

\begin{align}
I_cR_L = 25 V\\
A &= - 25\frac{1}{V_T}\\
&\simeq 961
\end{align}

 となり、これが理想的な2SC1815一石増幅回路で期待できる最大のゲインです。実際にはコレクタの出力インピーダンスなども絡んできますし、ここまでの数字はなかなか出ないと思いますが、それでも50dB以上は期待したいところです。

 次に I_cR_L I_c R_Lの比率の決め方ですが、上の制約を満たしていれば基本的には自由に決められます。 R_Lを下げると出力インピーダンスに直結するので、可能であれば I_c大きめで R_L小さめの定数としたいところですが、コレクタ損失の制約があります。

 2SC1815の最大コレクタ損失は 400 mWですが、高温の条件ではそんなに消費できません。

C1815のPc-Ta特性
C1815のPc-Ta特性

  400mW消費させたければ25度以下で使う必要がありますが、巨大ヒートシンクをくくりつけて強制空冷でもしない限りは非現実的な条件です。もう少し現実的な動作で、ということで75度で動作させるなら 200mWまで食わせられます。これくらいの温度なら、パッシブのTO-92用のヒートシンクをつければ行けると思います(そんなヒートシンクはもう入手困難だと思いますが)。ということで、 200mWで行くことにします。

  200mWを消費させることが決定したので、

\begin{align}
P_c &= \frac{V_{cc}}{2}I_c\\
200 mW &= 25 V I_c\\
I_c &= \frac{200 mW}{25 V}\\
&=8 mA
\end{align}

 と I_cを定められ、 R_L = 3.125 k\Omegaと定まります。なお、現実の設計ではもう少しマージンを取ってください(P_cだけでなく V_{cc}に関しても)。

 以上で、基本的な回路の動作点が決まったので、あとは実際のエミッタ接地増幅回路を組んでみるだけです。

 この記事ではシミュレーションを行います。

シミュレーション

 以下の回路でシミュレーションを行いました。

シミュレーション回路
シミュレーション回路

 バイアスはシミュレータで扱いやすい固定バイアスです。実際の回路ではコレクタから帰還をかけたり、電流帰還を強くした方が安定することでしょう。

 AC特性を見てみます。入力は 1 mVにしてあります。

AC特性
AC特性

 -60dBの入力に対して-6dBまでなので、 A=-500です。理想の半分程度。出力インピーダンスの低さを考えれば悪くありません。

 もう少し設計にマージンを持たせても400倍程度なら余裕で稼げそうなので、稼いだゲインを帰還に回せば一石ラインアンプとして実用的な性能が得られると思います。

まとめ

 2SC1815の一石アンプで50dBくらいのアンプが作れます(電源電圧さえ確保すれば)。