オーディオアンプとシミュレーション

主にLTSpiceを使ったオーディオのシミュレーションについて書きます。



ゲインの稼げる2出力の初段差動アンプ

はじめに

 まず断っておくと、この記事の回路は私のオリジナルではありません。

 ラムダコンさんのページによると PRA2000に使われた回路のようです。

http://www.geocities.jp/mutsu562000/root/theory/htm/hp028.htm

 この回路について説明しているページを以前Webで見かけた記憶もあるのですが、検索で見つけることができませんでした。ご存知の方・ページ作者の方はご連絡ください。リンクします。

https://www.audio-simulation.net/entry/2018/11/16/214915

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検討

 一般的な二段差動構成のアンプを考えます。

二段差動アンプ
二段差動アンプ

 このような構成の増幅回路は、初段が抵抗負荷のため、初段が差動+カレントミラー合成のアンプと比べると低域ゲインが稼げない傾向になります。

二段差動アンプのオープンループゲイン
二段差動アンプのオープンループゲイン

 案の定というか、70dBに達していません(ただしこの回路は、わかりやすいように二段目のエミッタ抵抗を大きくしてゲインを落としています)。

 ゲインが稼げない元凶は、初段負荷抵抗が1.2kΩと小さいことです。ではこれを単純に大きくするとどうなるかというと、抵抗による直流電圧降下が大きくなり、回路として成立させることが難しくなります(電圧増幅段を高電圧で動作させれば不可能ではありませんが、限度があります)。差動のテール電流を絞るのも一つの選択肢ですが、FETやトランジスタのgmは動作電流に対してほぼ線形に増加します。よって、動作電流を減らしてもゲインは思ったより稼げない結果になります。

 この対策として、安直に思いつくのは負荷抵抗にパラレルに定電流回路を挿入し、直流成分をそちらに流してしまうことです。とはいえ、定電流回路はそれなりの回路規模になりますし、負荷抵抗が高くなるとそれなりの精度も要求されます。けっこう苦労しそうです。

 という問題をスマートに解決するのが次の回路です。

初段が改良された二段差動アンプ
初段が改良された二段差動アンプ

 位相補償を若干いじってありますが、それは無視してください。

 初段の上の回路がミソです。一見すると「なんじゃこりゃ」という感じですが、実は極めてよく出来た回路です。

 20kΩが負荷抵抗で、その中点から上の2つのFET(トランジスタでも可。ただしベース電流に注意が必要になる)に対して直流帰還がかかっています。結果、上側のトランジスタは定電流回路のように機能します。中点が下がると上側の定電流回路の電流が増大し、逆に中点が上がると上の定電流回路の電流が減少する……というループで、結果的に中点電位は適当なところに保たれます。

 実際的には、テール電流の1/2が100Ωに電圧を発生させ、更にその電圧とVgsによってゲート電位が決定し、+電源からゲート間の電圧が50kΩに電流を流して20kΩに適度な電圧が発生する……と捉えた方が計算しやすいでしょう。

 ゲインを見てみます。

初段が改良された二段差動アンプのオープンループゲイン
初段が改良された二段差動アンプのオープンループゲイン

 このように20dB程度の改善が得られます。二段目の入力インピーダンスを高くすれば、もっと抵抗を大きくしてゲインを増やすことも可能です(PRA2000はエミッタフォロアを挿入しているようです。今なら高入力インピーダンスのFETを使えば良いでしょう)。

まとめ

 このように素晴らしい回路なのですが、ほとんど見かけないのは特性の良いトランジスタによってgmが稼ぎやすくなり、ここまでする必要性がなくなったこと、そもそも二段差動アンプという形式が廃れているからだと思います。初段でカレントミラー合成してしまえば、もっと安直にゲインが稼げる訳ですし。また、モノリシック回路のオペアンプでは精度や特性の良い高抵抗が使いづらいという事情もあるでしょう。

 とはいえ、アイデアには光るものがあるので、廃れてしまうのは勿体無いような気もします。これになにか使いみちはないのでしょうか。